2次元層状物質である1T-TaS_<2-x>Se_x固液系を対象とし、STM/STSによりフェルミ準位近傍の局所状態密度分布の温度及び組成依存性を調べた。 1T-TaS_2では、高温相であるnearly commensurate相やT相では、フェルミエネルギーE_F近傍(-0.5〜0.5eV)の状態密度が温度の低下とともに減少するものの、N(0)は有限であり、基本的に金属であると考えられる。しかし、commensurate相に転移すると、突然-0.3eVと-0.2eVにコンダクタンスのピークを伴った明瞭なギャップ構造が観測された。また、77KにおけるSTM/STSより、コンダクタンスピークはいずれもCDWの極大の位置で高くなることが判明した。このことは、状態密度がCDWの極小から極大へと移動したことを意味している。以上の結果は、ギャップ構造の生成が、電子間のクーロン相互作用によるもの(モット局在)であることを示している。本実験の結果は、モット局在を実空間から確かめた初めての例である。 一方、SをSeで置換していくと、x=0.5まではx=0とほぼ同様の挙動を示すが、x=0.8ではピーク構造は消え、有限のN(0)が現われた。また、x=2ではE_Fの位置を除けばほぼバンド計算と一致するスペクトルが得られた。このことは、Sの量が増えるにつれ電子相関が強まることを示している。モット転移の機構としては、N(0)の減少及び有効質量m^*の発散の2つのメカニズムが考えられるが、本実験の範囲内では、m^*の発散を示すE_F上のピークは観測されず、N(0)の変化による機構を示唆している。
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