本研究では、高分解能局所磁場測定装置を用いることによって、高温超伝導体の磁気特性について新たな知見を得ることを目的としたが、今年度の研究により、以下のような成果が得られた。 まず、高分解能局所磁場測定装置について、小型電磁石を液体窒素で冷却できるようにクライオスタットを改良した。これにより電磁石の抵抗を抑えることができ、前段階で700Gに限られていた磁場範囲が2.5kGにまで広がった。また、画像取込ボードの導入により、二次元磁場分布の元となる画像を計算機に取り込み、局所磁場分布の定量的な解析を行うことが可能となった。 つぎに、高温超伝導体の単結晶について、Y系およびBi系の良質な単結晶を得ることに成功し、特に表面にフラックスなどの付着していない、解析が容易な形状(平板状の直方体)のもの取り出すことができた。 さらに、得られた単結晶について、低温における局所磁場分布を磁場を変化させながら測定し、定量解析を行った。まず、Bi系の単結晶については、その形状を反映して、磁場に垂直な平面でみると辺の部分から磁束が侵入し、頂点部分は磁束が侵入しにくい様子が観測された。この効果は反磁場の効果であり、平板状の形状の場合にはこの効果を考慮しなければいけないことを示している。また、双晶境界を持つY系の単結晶については、8.5Kという低温において、双晶境界上で増磁過程で磁束が侵入しやすく、また減磁過程で磁束が外部に排出されやすいことが明らかになった。すなわち、双晶境界のピン止め役割は、より高温で報告されているような磁束のピン止めバリアであるというよりは、低温では磁束のガイドラインとなっており、双晶境界のピン止め機構が温度とともに変化することを示唆している。 このような振る舞いについて、試料全体にわたって積分した磁化の測定は無力であり、局所磁場分布の測定の重要性が明らかになった。本研究が、高温超伝導体のピン止め機構を解明する上で、重要なてかがりとなると信じる。
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