「極低温蒸着装置」を製作することによって、限りなく理想的な2次元系に近いインジウムの超薄膜および超微粒子膜を急冷蒸着によって成膜し、500mK迄の極低温、最大11テスラの磁場中における電気抵抗、ホール抵抗およびトンネル状態密度の「その場」測定を行うことが可能となった。その結果、量子ゆらぎ、および熱ゆらぎに起因した新しい相転移や臨界現象を見い出すことができた。 1 「2次元超伝導体の超伝導絶縁体(SI)転移と量子ゆらぎ」に関する研究 乱れだけを広範囲に変化させた2次元超伝導体を準備することに成功し、1K以下の極低温で、電気抵抗は発散するがホール抵抗はゼロに向かう新しい絶縁体相が存在することを発見した。このSI転移点近傍で、トンネルスペクトルスコピーも併せて行うことによって超伝導エネルギーギャップを調べ、この相が量子ゆらぎに起因するク-パ-対の局在したボ-ズグラス相である可能性を実験的に示した。 2 「マイスナー相および混合状態における非線形抵抗と熱ゆらぎ」に関する研究 非線形抵抗を広い温度磁場範囲で調べることによって、(1)マイスナー相では膜厚の増加と共に、渦糸・反渦糸対(KT)から渦糸ループへと渦糸の状態(次元性)が変化していくこと、また(2)混合状態では、ボルテックスグラス(VG)転移が起こることを見い出し、これが汚れた超伝導体における普遍的な性質であることを明らかにした。さらに、膜厚と平均粒径を独立に変化させることによって、2次元系、およびジヨセフソンネットワーク系とみなせる3次元系ではVG転移が観測されないことがわかった。これらすべての結果は、熱ゆらぎの効果を考慮したVGモデルによって統一的に説明することができた。 ボ-ズグラス相存在の確証を得るためには、今後、希釈冷凍機温度(10mK)における研究が必要である。
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