研究概要 |
酸化物高温超伝導体La_<1-x>Sr_xCuO_<4-δ>の超伝導特性と電子状態の酸素濃度依存性を通じて超伝導発現機構を解明するために、1)ミュオン原子X線による高感度非破壊酸素濃度分析、2)負ミュオンスピン回転(μ^-SR)法による酸素近傍の電子状態とミュオン捕獲サイトの決定、3)大型単結晶の育成と雰囲気ガス中アニールによる超伝導特性の変化のSQUIDによる研究を、同一の熱処理を施した同一の単結晶を用いて複合的かつ系統的に行った。 結晶中の酸素濃度を、非破壊でかつ高感度に分析する方法がこれまでなかった。我々はミュオン原子X線をバルクの物質の濃度分析に利用してきた実績に基づき、種々の改良を加えてその検出感度を公称濃度の0.1%に上げることを目標とした。La_<1-x>Sr_xCuO_<4-δ>およびその原料化合物(CuO,La_2O_3,SrCO_3)を標的として、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所中間子科学研究センター(KEK-MSL)で予備実験を行い、その解析結果に基づき、それぞれDCとパルスで世界最高強度の負ミュオン発生施設であるTRIUMF(バンクーバー)とRutherford Appleton研究所(英)理化学研売所ミュオン科学研究室(RIKEN/RAL)において、4年がかりでエネルギー分解能と測定感度の向上のための実験条件の改良を重ねた。その結果、酸素133keVのピークにおけるS/N強度比を、従来の2倍から15倍に引き上げることができた。改良の途中段階(S/N比5倍)で、(a)2000気圧加圧酸素雰囲中と(b)1気圧酸素雰囲気中の熱処理によって酸素濃度の0.6(0.5)%の減少が初めて非破壊で検出された。改良後の実験系での精密分析は次回のマシンタイムに予定しているが、酸素濃度の目標感度0.1%達成の見通しがついた。さらに(μ^-O)SR実験によって、頂上酸素および面内酸素近傍の電子状態を分離して観測することに成功した。現在、これらの酸素濃度依存性の解明に取り組んでいる。
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