研究概要 |
ヘリウム3はフェルミ粒子であり,縮退状態では液体中のヘリウム3準粒子の平均自由行程は温度の-2乗に比例する。そのため超低温では平均自由行程が非常に長くなり,いわゆる局所場の理論は適用できなくなる。本研究はこのような状況でのヘリウム3準粒子の境界面での散乱に関するものである。 本年度はおもにねじれ振子による実験を行った。境界面の状態がヘリウム3準粒子の散乱に及ぼす影響をより積極的に調べるために,試料室表面をヘリウム4の薄膜で覆った実験を行った。上にも述べたように超低温ではへリウム3準粒子の平均自由行程は無視できない大きさとなるため,実験結果はこのことを考慮に入れたスリップ理論と比較することになる。測定は温度および試料の圧力をパラメータとして行い,純粋なヘリウム3の場合の実験結果と比較を行った。測定により以下のことを明らかにした。 1.液体ヘリウム3の粘性はヘリウム4の薄膜の有無に関わらず,同じ温度依存性を示し,絶対値もほぼ同じ値となった。このことは,我々の測定方法の正しさを示している。 2.超流動転移点直上でのゆらぎの効果ははっきりとは観測できなかった。 3.常流動状態でのスリップ長はヘリウム4の薄膜の影響を受け,5barの圧力ではすべての温度域で約2倍となった。これに対し,21barではその効果が現れなかった。これは第4音波法による測定結果,すなわち高い圧力ではヘリウム4の効果がなくなってしまうという結果とよい一致を示している。 4.超流動状態でのスリップ長は21barでは高い圧力のためほとんどヘリウム4の影響は受けていないが,5barでは約2倍となった。また,その温度依存性からヘリウム4の薄膜がある場合でもアンドレーエフ反射が起こっていることも明らかとなった。
|