研究概要 |
諸般の事情によって,雲物理過程実験設備を北海道上砂川から岩手県釜石に移設することになった.それに伴い,上砂川実験結果と釜石実験結果を比較することからはじめた.両者を比較するにあたって,設備や環境などに関する違いは当然重要なことではある.しかしさらに重要なのは,雲の微物理過程に直接変化をもたらすような初期条件の違い,すなわち,エ-ロゾルの組成・数濃度(粒径分布)や上昇流速などに関する違いである.これらの初期条件の違いが雲粒粒径分布に対してどの様な影響を及ぼすかについてまとめた. それぞれの条件のもとでのCCN数濃度と雲粒数との関係を定量的に評価することができた.CCNの組成や上昇流速の違いが,CCN数濃度と雲粒数との関係に,かなり大きく影響していることがわかった.またCCN数濃度が高いときには上昇流速の違いによる効果の方が大きく,CCN数濃度が低い場合にはCCNの組成の違いによる効果の方が効くような傾向が見られた. CCNの組成の違いや上昇流速の違いによる効果を表現したグラフに対して,釜石のCase2とCase3の観測データをプロットした.雲粒数は観測値を使用し,CCN数濃度は,エ-ロゾル元素組成分析でのSの出現頻度が約25%なので,全エ-ロゾルの25%がCCN(FeSO_4)であるとしてプロットした.これらのデータ点は,本来であれば,釜石の環境を想定したFeSO_4,1.0m/sという条件に対応するはずである.しかし,これらの観測によるデータは,その条件のグラフ上の線から外れてしまっている.このことは,釜石ではFeSO_4の他にも多くのCCNが存在していることを示している. 今後,釜石実験設備において実際に上昇流速を変化させ,そのときの雲粒粒径分布の変化を実験により観測する必要がある.
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