氷晶過程を経ない、いわゆる「暖かい雨」の形成には、直径50μm以上の雲粒が雲内で生成される必要がある。どういう場合にこのような大きい雲粒が生成されるか等の雲粒粒径分布を決定する条件を、本実験設備を使用して研究した。雲粒粒径分布を決定するパラメータとしては様々なものが存在する。まず初めに立坑内に流入するエアロゾル数濃度と生成された雲粒粒径分布について観測を行なった結果、凝結核数濃度が低いときには雲粒数は少なくて粒径は大きくなり、凝結核数濃度が高いときには雲粒数は多くて粒径は小さくなるという雲物物理学に重要な現象を実際に証明することができた。 次に雲粒の凝結成長について数値シミュレーションを行ない、坑底湿度の違いのみによる雲粒粒径分布への影響と、凝結核数濃度の違いのみによる雲粒粒径分布への影響とを、それぞれ定量的に評価して明らかにすることができた。 その後、上砂川から釜石に移設し、現在に至るまで実験、研究を継続している。そこでは、エアロゾル組成と上昇流速が上砂川の立坑とは違っていたので、エアロゾル組成と上昇流速について、以前に構築した雲粒の凝結成長についての数値モデルを使用して、形成される雲粒粒径分布に対する各パラメータの寄与を調べた。その結果、凝結核濃度の高低によらず、生成される雲粒数は上砂川のNaClの場合の方が釜石のFeSO_4の場合より常に約1.3倍多くなり、雲粒の平均粒径は常に約0.91倍になることがわかった。次に上昇流速が違う場合については、上昇流速が釜石の1m/sから上砂川の2m/sに変ると、生成される雲粒数は約1.7倍多くなり、平均粒径は約0.86倍になることがわかった。以上によって暖かい雨の形成機構を理解することができた。
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