(1)低温低圧実験槽の改良 酸性水滴の凍結によって形成された氷晶の一部を電子顕微鏡メッシュ上に採集し、その科学組成を調べることができるように実験槽を改良した。この改良では、試料採取ロッドを氷晶の所まで挿入した後、ヒ-タによりメッシュを約20℃に過熱し、CCDカメラで氷晶を観察しながらメッシュを氷晶に接触させ、氷晶の一部を液体状態にしてメッシュ上に採取した。また、実験槽内では、水蒸気の供給部から、水蒸気だけでなく硝酸や硫酸蒸気も供給できるようにした。さらに、ミクロンオーダーの微水滴の凍結実験ができるように、サンプルホルダーに張る白金線を1μmのものに取り替える改良を試みたが、きれいな1μm線をサンプルホルダーに張ることが大変困難であったため断念した。 (2)各種溶液微水滴の凍結条件の測定 前年度と同じ凍結実験を行い、実験結果の再現性を調べた。また、水滴の凍結によって形成された氷晶の温度を上げ、氷晶の融解温度も測定した。 (3)凍結微水滴の化学組成の分析 硫酸微水滴を凍結させる過程で、水蒸気と硝酸蒸気を供給する凍結実験を行い、凍結前後の水滴と氷晶の化学組成を二重試薬薄膜法を用い電子顕微鏡で調べた。その結果、NO_3^-イオンが水滴中には検出されなかったが、氷晶中では検出された。これらの実験から、硫酸水滴が凍結し氷晶になると硝酸蒸気が氷晶中に吸収されるようになることが見いだされた。 (4)成層圏雲内における氷晶とNAT粒子の形成条件の推定及びそれらの物理学的考察 成層圏大気中に考えられる酸性水滴で予想される濃度では、我々の実験結果から硫酸水滴が成層圏雲内における氷晶の形成に凍結核として寄与している可能性が高いと推定される。また、凍結微水滴の化学組成の結果から、NAT粒子の形成に硫酸水滴から形成する氷晶が重要な役割を果たしている可能性が見いだされた。
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