成層圏雰囲気の低温低圧実験槽中で、酸性水滴の凍結温度を測定すると共に、形成した氷晶の化学組成を試薬薄膜法を用い電子顕微鏡で調べた。酸性水滴はサンプルホルダー中のタングステン線に吊るした。実験に使用した酸性水滴の大きさは直径10〜50μmである。酸性水滴の作成には、硫酸、硝酸、塩酸とメタンスルフォン酸を用いた。水滴は顕微鏡を通してCCDカメラで観察した。水滴の凍結温度は水滴中で氷芽が発生する温度によって測定した。その結果、硫酸水滴の凍結温度は酸濃度の増加と共に、ほゞ直線的に減少した。重量濃度70%の硫酸水滴の凍結温度は約-80°Cであった。一方、硝酸水滴の凍結温度は酸濃度には強く依存せず、凍結温度は35%以下の酸濃度で硫酸水滴より低かった。また、塩酸水滴も硫酸や硝酸水滴より低い温度で凍結した。一方、水滴が凍結した後、氷晶の温度を上げその融解温度も測定した。また、硫酸水滴の凍結によって形成した氷晶の一部を塩化バリウムとニトロン薄膜を張った電子顕微鏡メッシュ上に採集し、その化学組成を調べた。その結果、硫酸と水蒸気の供給の下で実験された未凍結の水滴中にはS042-イオンしか検出されなかったが、水滴の凍結によって成長した氷晶中にはN03-とS042-イオンが検出された。これらの結果は硫酸を含む水滴が凍結し、氷晶に成長すると氷晶が硝酸蒸気を吸収するようになることを示している。本実験の結果は、成層圏において氷晶とNAT粒子が硫酸の凍結によって形成される可能性を強く示唆している。
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