研究概要 |
本年度は、イオン線ライン上に設置する「試料照射用温度圧力環境可変チェンバー」の設計製作(末野、栗田)を行った。設計に先立ち,加速器センター研究者の全面的協力を得ながら,照射実験に使用するタンデム型加速器により,既設の一般照射用チェンバーを利用してイオン線の安定性とビーム内でのイオン線強度分布や,チェンバー内の真空度,炭素質物質試料にイオン線を照射した場合に試料から発生するガスの有無とその真空度に対する影響などを綿密にテストした。その結果,イオン線不安定性,照射中の試料観察装置の不備,試料の温度上昇によるガスの発生と真空度の低下などの困難があることが判った。それらの状況を把握した後,チェンバーの設計を行ったが,試料は梯子状の試料ホルダーに数個を取り付けて,その試料ホルダーがチェンバーの金属蓋上に設置した3軸モーター可動装置で前後,左右,上下にリモートコントロール出来るように設計製作した。この設計では,駆動装置がチェンバー外部にあるため,真空に対して影響せず,またチェンバー内部には空間的余裕が出来るため,温度上昇装置も取り付けられる。 炭素質物質試料についての本格的な照射実験は行えなかったが,タンデム型加速機内での荷電変換に使用するブ-スターフィルター炭素膜のX線回折(中井)やTEM(末野,中井)による研究などを行った。その結果の結論はまだ出ていないが,照射後の炭素膜は,非常に割れやすく,炭素組織に照射による変化が生じたことは明らかである。 今年度は,本格的に照射実験を遂行する時間がなかったが,来年度における実験準備は整った。来年度はPAH物質などの星間dust類似の炭素質固体物質試料の照射実験を主に行う。照射後の試料は,その赤外吸収スペクトル変化を参照しつつ,FTIR[既設],Raman散乱[既設]などの分光学的手法、電磁気的手法などによる測定を行なう。
|