間接遷移型半導体を利用して発光材料を得る試みとしては、zone-foldingによる直接遷移型半導体への変換を目的とした超格子構造、周期に不規則性を持たせ局所的なポテンシャルのゆらぎを利用した不規則超格子構造、井戸層を混晶にして混晶ゆらぎにより選択則をゆるめる量子井戸構造などの半導体超構造が知られている。今回、我々は「隣接閉じ込め構造」という半導体超構造を新たに提案し、この構造を間接遷移型半導体に適用することにより発光効率を飛躍的に向上できることを見い出した。この構造は、タイプIIのヘテロ接合をバリア層で挟んだものであり、電子と正孔は、隣接するキャリア閉じ込め層に空間的に分離されて閉じ込められる。k空間でも、実空間でも間接となる一見不利な構造にも関わらず、キャリア閉じ込め層の厚みを最適化することにより、電子と正孔の波動関数の重なりは、タイプIの量子井戸に匹敵するほど大きくとることができ、発光効率を向上させることが可能となるわけである。この構造を、AIP/GaP系およびSiGe/Si系という、ともに超格子構造を利用した研究が盛んにおこなわれている材料系に適用した。 タイプIIのA1P/GaPヘテロ接合をAl_<0.5>Ga_<0.5>P混晶のバリヤ層により挟んだ隣接閉じ込め構造の場合、電子はAlP層に、正孔はGaP層に空間的に分離されて閉じ込められる。この構造を採用した結果、AlP(25Å)/GaP(6Å)から成る試料が、300周期の(AlP)_<3.5>/(GaP)_<3.5>超格子より1桁程度も強い発光を示した。また、発光強度の温度依存性では、超格子の発光が77Kでは検出できなくなってしまうのに対し、隣接閉じ込め構造では1桁程度しか減少せず、温度耐性が飛躍的に向上していることがわかる。これは、キャリアの有効な閉じ込めによる効果であると思われる。AlP/GaPの片方の層厚を固定し、発光波長の層厚依存性を調べたところ、いずれの層厚の変化に対しても予想された量子閉じ込め効果による発光波長のシフトを示し、所望のバンドラインアップが形成されていることが確認できた。SiGe/Si系にも同様に適用できることがわかった。
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