研究概要 |
本研究では,(1)テラヘルツ光分光測定法を,半導体ヘテロ構造中や量子細線構造中において高電界下にあるホットな電子系の電子状態を解明するための新評価手法として発展させるとともに,(2)今後益々その応用が重要となると考えられる低次元電子構造中のホットエレクトロンの散乱・エネルギー緩和機構などを明らかにすることを目的とし、以下のことが明らかとなった。 1.低次元電子系の電子温度の振る舞い:半導体ヘテロ構造や量子ナノ構造中のホットな電子系からの極微弱なテラヘルツ光輻射の強度,およびそのスペクトルを精密測定できるシステムを構築した。それを用いて、電子系に擾乱を与えることなく、半導体ヘテロ構造中の2次元電子系および量子細線構造中の擬1次元電子系を電気的入力によりホットにしたときに電子系が放出する黒体輻射を測定することにより、入力パワーと電子温度の関係を明らかにした。その結果、ヘテロ構造2次元電子系と量子細線1次元電子系について、電子温度の振る舞いには特に差は見られなかった。これは、現状の超微細加工技術の限界から、量子細線幅は約100ナノメートル程度あり、その中の電子系は未だ擬2次元的に振る舞うためと考えられる。電子温度の次元性による振る舞いの差を見るためには、今後、さらなる超微細加工技術の進展が必要である。 2.ホットなプラズマ振動の温度:さらに、半導体ヘテロ構造中の2次元電子プラズモンを電気的にホットにし、ホットなプラズモン系から1THz近傍の周波数領域に狭帯域の発光を観測した。その解析より、高電界下では、電子-電子相互作用は極めて短い時定数で、異なるプラズモンモード間を、効率よく平衡状態に導くことを明らかにした。
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