申請者らは、高分子水溶液系の相分離現象の研究において、高分子リッチな粘弾性相と溶媒リッチな液体相という全く力学的性質の異なる2つの相に相分離する場合、従来の常識に全く反して粗大化を伴わない安定な、粒子状異常相分離現象が起こることを見出した。我々はこの相が、≪動的対称性(成分間の分子ダイナミクスの対称性)≫という新しい概念により包括的に説明できると考えた。 平成6年度において本科学研究費により購入した設備備品により(a)動的光散乱測定装置、(b)静的光散乱測定装置を作成した。この年度における予備的な測定から、両測定装置共に、計画した測定精度を十分上回り、計画の遂行に十分な性能を有していることを確認した。 平成7年度はこの測定装置を用いて、まず高分子溶液系の測定を行った。 1.高分子溶液系の臨界点近傍における濃度揺らぎのダイナミクスを中心にして(a)の装置により研究を行った。濃度拡散モードが粘弾性効果により抑制されるという結果が得られ、粘弾性効果の存在を証明した。 2.(b)のシステムを用いて高分子溶液の不安定領域の測定を行った。顕微鏡観察では測定不可能であった相分離初期過程の測定が可能となり、この過程における構造形成のダイナミクスに関する知見を得た。 また各種の複雑流体系へのアプローチから粘弾性効果の普遍性、工学的応用に対する実験を遂行した。 3.普遍性の検証: ≪動的対称性≫の概念の普遍性を探るため、高分子溶液系に限らず、高分子混合系、ミセル溶液系などの複雑流体に関しても、相分離ダイナミクスの研究を行い、≪動的対称性≫が高分子系に特有のものなのか、より広い物質群に共通の普遍的な現象なのかについての検証を行った。現在の研究効果には、我々の考え方を強く肯定する結果が得られていると考えらいる。 4.工学的応用: 上記の物理現象の工学的応用として、粘弾性効果により発現するネットワーク型相分離構造などを積極的に用いることによりポリマーアロイの新しい構造制御法を考案した。 以上、研究計画は、現象のモデル化を含めて、概ね順調に完了した。
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