1.負イオン源と負イオン注入装置の開発:炭素、シリコン、銅、銀、フッ素、酸素など各種元素の負イオンが多量に得られるmA級のRFプラズマスパッタ型負重イオン源を開発した。また、負イオン注入実験用に小型のスパッタ型負重イオン源を搭載した負イオン注入装置を製作した。 2.高分子材料への負イオン注入による表面電位の計測法の開発と低帯電電圧の測定:従来不明であった絶縁物の表面帯電電位の計測法として、二次電子のエネルギー分析による方法を考案した。これにより、ポリエチレンやポリスチレンなどの高分子材料表面の負イオン注入中の帯電電圧を求めた結果、表面電位は負の値であり、その絶対値は数V〜10数Vと極めて小さいことが明らかとなった。絶縁物の負イオン注入による帯電機構モデルとして、電気二重層モデルを提案した。 3.負イオンビーム処理と接触角による評価と表面構造及び官能基の測定:ポリスチレンへのアルゴンや酸素などの正イオン注入では水との接触角が低下するのに対して、炭素負イオン注入では、接触角が85°から95°と増加した。従って、炭素負イオン注入では疎水性の向上が期待できることが判明した。XPS測定の結果、イオン注入では、C-0、C=0、0=C-0などの官能基が導入されることが明らかとなり、これらが親水性を高めることが判明した。しかし、炭素負イオン注入では、注入された炭素原子により官能基の生成にもかかわらず疎水性が向上した。これは炭素原子密度の増加によると考えられる。 4.微粒子への無飛散イオン注入法の開発:粉末試料へのイオン注入では粒子の飛散が問題となっている。帯電による粒子飛散を理論的に解析し、粒径に対する飛散限界の帯電電圧の関係を解明した。また、数〜数100μm径の微粒子へ負イオン注入を行った結果、20kVの負イオン加速電圧にも関わらず、絶縁物への負イオン注入では帯電電圧が10V程度と小さいため、粒子飛散は観測されなかった。負イオンを用いることにより、無飛散イオン注入が可能である。
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