Si(111)-7x7上へのAlCl3吸着過程の観察結果は以下のようにまとめられる。(1)分子は表面上で解離吸着し、AlClxおよびClの形で表面シリコンアドアトムと反応する。(2)前者は±2Vの範囲で未反応のシリコンアドアトムより常に明るく観察される。(3)後者はシリコンアドアトム直上に吸着しており低電圧(1V)では周りの未反応サイトより暗く観察され、電圧を高くするにつれて(2V)明るく観察されるようになる。これはシリコンダングリングボンドが塩素原子により終端化され新しい結合が生じたためである。さらに、塩素原子については吸着サイトの強い選択性が観察され、コーナーアドアトムに比べてセンターアドアトムサイトに優先的に吸着する。これはDAS構造における個々の原子サイトの電子構造の差によるものと思われる。 Cl吸着位置にパルス電圧を印加すると、適当な条件下でCl原子がエッチングされSiアドアトムが現れる。異なるパルス電圧について脱離確率を調べてみたところ、(試料:正)の場合の方が(試料:負)の場合より脱離確率が高いことがわかる。また、脱離確率はトンネルコンダクタンスにも依存し、100nA/Vの場合が10nA/Vの場合よりも高いことがわかる。さらにしきい値電圧もトンネルコンダクタンスに依存し、100nA/Vの場合〜±4V、10nA/Vの場合〜±5Vとなっている。以上の結果を説明しうる吸着Cl原子脱離のメカニズムとしては電界蒸発機構、近接した探針-表面原子の波動関数の重なりによる原子引抜き現象などが考えられる。
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