研究概要 |
すべての物造りの基本は、付加すること(デポジション)は削り取ること(エッチング)である。これをいかに精密にしかも制御して行うかが今日の半導体デバイスの微細プロセスにおいても重要な位置づけであり、デバイスサイズの微細化の流れに伴い究極的には原子レベルでの加工技術が必須となる。本研究では主にハロゲン系の反応ガスを用いて、原子レベルでの表面加工のためのデポジションやエッチング技術を模索しようとするものである。このスケールでは個々の原子間の電子の授受を考慮に入れた化学反応をもはや無視できない。本研究では原子レベルの表面構造の評価に、走査トンネル顕微鏡(STM)を用いたが、この装置は探針を表面から数原子層まで近づけるため、その近接作用を利用した表面加工が可能である点も大きな特長である。 本研究ではシリコン清浄表面の原子構造、電子構造を明らかにした上で、ハロゲン系ガス(AlCl_3,BCl_3)との表面反応をSTMにより原子レベルで観察し、その反応メカニズムを明らかにした。ガス分子は表面で解離吸着し、アニールにより塩素原子が表面から脱離し金属原子がデポジションすることを見出した。特に、前者のガス吸着表面において探針と試料表面との間に電圧パルスを加えることにより、表面のシリコン原子と結合している一個の塩素原子を引き抜くことに成功し、各条件における引き抜き確率と理論計算と比較することによりエッチングメカニズムの検討を行った。また、未解離の吸着分子をパルスにより脱離、移動、解離させることが可能であることを見出した。この他、アンモニアガスを用いた窒化膜形成、水素を用いた表面層のエッチングに関しても重要な知見を得た。以上のように本研究ではまだ初歩的ではあるが、ハロゲンガスを初めとする吸着ガスを用いた原子レベル加工技術の可能性を見いだした点に特徴がある。
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