研究概要 |
基板上に堆積した電子デバイス用薄膜の熱物性値(熱容量,熱伝導率,熱拡散率)はデバイス設計,残留応力やデバイスの経時変化の解析,デバイス特性の適正化に重要な定数である。しかし,厚さ1μm程度の薄膜に対する熱物性値測定法の確立は新デバイス開発のためのキ-テクノロジーとされながら,現状ではまだ測定手段が確立せず模索の状態にある。 我々は,新しい光音響分光法(PAS)を開発・改良して感度・精度を上げる研究をしてきたが,従来のように厚さ方向だけの情報から薄膜の熱物性値を求めることは,(1)熱拡散長が膜厚の数100倍となり,測定精度が上がらない。(2)物理定数の決定にはトランスジューサ,基板,試料および空隙も熱抵抗として考慮しなければならず,解析が繁雑,などの欠点があり高精度測定は不可能であった。 本研究の特色は薄膜表面に沿って横方向に伝搬する熱を,電極を分割した焦電トランスジューサ法PASで感度良く検出する新しい方法を開発した点にある。今年度は焦電センサに付けた透明電極を,電極を付けない部分で分割し,それに接した薄膜試料に透明電極を通して照射した光ビームによるPA信号の伝搬特性から物理定数の決定をする予定であった。しかし、理論シミュレーションと実験結果を照合すると,この方法では透明電極の熱伝導率が予想以上に大きいこと電極のない部分は空気で接しているので空気の熱伝導率を考慮する必要のあること,試料とトランスジューサの接触抵抗を考慮する必要のあることが分かった。そこで,接触するのではなく電極に直接シリコン薄膜を堆積し,シリコンの膜質をRHEEDで確認しながら熱物性値の測定を試みている。理論と実験の一致がいま一歩で,考慮すべきファクターを増やす必要がある。
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