研究概要 |
本研究では、申請者らの研究室で開発したパルスレーザー光を用いた過激熱起電力効果(TTE)測定法の一層の発展を目指し,試料に静電場や磁場を印加することにより,過渡熱磁気効果,過渡ホール効果測定などを総合した新しい動的測定法として伝導キャリア分光装置を開発し,これを用いて高温超伝導体や種々のマルチ伝導キャリア系の伝導機構を解明する。本年度以下のことを明らかにした。 1.分光装置の改良を行うため、パルスレーザとして波長可変(690-1,320nm)かつ繰返し発振可能な,Nd:YAGレーザーを励起光とするTi:サファイア/フォレステライト・レーザー光源,光学系,クライオスタット,検出系,制御系などを整備した。この測定系を用いて,現在テスト試料としてGaAs結晶のTTE測定を行い,波長を可変することによる興味ある新しい情報が得られつつある。 2.1.nsまでの高速微弱信号を検出するためのデジタルオシロスコープ(購入)を導入して検出系の改良を行うとともに,ビームスプリッターを用いてレーザー強度を従来の1/10以下に下げた。これらの改良により,p型GaAs結晶のTTE信号の数ns-数10nsにわたる高速過程が精度よく測定可能となった。 3.最近注目されている種々の分子性導体のうち,DMe-DCNOI分子のシアノ基が銅金属イオンと配位結合して架橋したDCNOI-Cu錯体について,広い温度範囲に渡りTTE測定を行った結果,いくつかの緩和過程が観測され,フェルミ面等に関する興味ある情報が得られつつある。ただし,このTTE電圧は極めて微弱なため,デジタル・ストレージスコープで200-500回積算操作を行った。 4.更に、ターボ分子ポンプを用いた現有の高真空装置に電子銃を組込んだ電子ビーム蒸着装置を改良・整備し,現在これを用いてGaAsの基板上にテスト試料としてモリブデン酸化物の蒸着実験を試みている。
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