強磁性金属と非磁性体を積層した多層薄膜に微細加工を施して3次元電流路を形成し、膜面垂直方向電流におけるスピン依存型電子散乱実験及びその磁電変換素子への応用に関する計算機シミュレーションを行い次のような成果を得た。 1.電子ビーム蒸着法により磁界中で成膜したNiFe/Cu/Co非結合型磁性多層膜において、Co層成膜時に印加した磁界方向への一軸磁気異方性の誘導を示唆する顕著な異方的磁気抵抗効果を観測した。Cuチャップ層による表面酸化防止、及び酸素プラズマ照射による表面酸化を行った試料の磁気抵抗特性の比較から、CoO層の磁気的硬質化による磁気抵抗特性の改善効果を確認した。磁界中電子ビーム蒸着により成膜した多層膜をイオンミリング法により微細加工したNiFe/Cu/Co及びNiFe/Co/Cu/Co薄膜パタンにおいて各々4.3%、6.3%の高い磁電変換効率を得た。 2.Co/Cu-Cu酸化層からなる積層膜に微細加工を施して作製した強磁性トンネル接合素子において室温で約0.8%の磁気トンネル効果を得た。高周波スパッタ法、及び電子ビーム蒸着法によるCo層の保磁力に顕著な差があることに着目し、磁気トンネル効果に必要な磁化の反平行状態を実現した。Cu層成膜後に成膜装置内で表面酸化層をin-situ成膜することにより接合抵抗の酸化条件依存性を明らかにし酸化層厚を適正化した。 3.Co/Ge/Coからなる磁性体、半導体複合積層膜に微細加工を施し垂直スピンバルブ素子を作製した。接合部抵抗の温度特性からGe層の膜面垂直方向の電気伝導が、半導体的であることを確認した。また、室温で約0.2%にの磁気抵抗変化率を確認し、半導体層を伝導する電子がスピン偏極を保持し、スピン依存型の伝導特性を示すことを見出した。 4.サブμmオーダの磁性薄膜パタンの磁化過程の詳細をマイクロマグティクスにもとづく計算機シミュレーシンにより明らかにした。また、上記薄膜パタンの磁化状態をビット情報とする磁性RAMの基礎検討としての2次元磁性薄膜パタンアレイの導体電流による選択的磁化反転のシミュレーションを行い、メモリ構成、動作条件最適化の指針を得た。
|