研究概要 |
本研究では,エジプト産の石灰岩・砂岩の風化および劣化機構の解明を行うことを目的とし,将来的にはその成果を大スフィンクスをはじめ古代の石造遺跡の修復・保存を行うための基礎的な指標を構築するものである。劣化機構の解明は,海成石灰岩の間隙における塩分の再結晶化,スレ-キング現象やそれに伴う力学特性および透水特性の変化を調べる。 本年度は,エジプトキザ地区モカタム層で採取された石灰岩を用いて,静的および動的なスレ-キング試験を行い,それに伴う力学的挙動の変化を検討した。同時に間隙からの塩分の再結晶に関する研究も行った。 塩分再結晶試験では,供試体の下部を蒸留水および食塩水に浸し,3ケ月間継続した後,塩分の析出状況を電子顕微鏡で観察した。それによると,蒸留水および食塩水のケースにおいて供試体上部に塩分の結晶が析出することを確認した。再結晶の厚みは食塩水で5mm,蒸留水で1mmである。また,食塩水を用いたケースでは,石灰岩空隙から押し出されてきたような明瞭な針状の結晶構造を示し,蒸留水を用いたケースでは,通過してきたとみなされる空隙開口部付近に析出していることが確認された。空隙のサイズは食塩水を用いたケースの方が大きくなっていることから,空隙を塩分が通過することにより劣化が促進するものと考える。 静的スレ-キング試験では,50℃6時間炉乾燥,2℃6時間水浸のサイクルを40回加えた。スレ-キングの程度を定量的に評価するため,質量変化や吸水量変化を調べるた。サイクルが進むにつれ.質量は減少し,吸水量が増加することが確認できた。このことから,表面構造はあまり変化しないが内部構造が変化する,すなわち,空隙が大きくなり劣化していることになる。実際に,サイクル毎に弾性波速度や圧縮強度の測定を行うと,どちらの値も減少し,確実に石灰岩は劣化していることが確認できた。
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