研究概要 |
エジプトの古代遺跡の中で最も有名なものが,今から約4,500年前,エジプト・カイロ市西方ギザ台地に建造されたピラミッド群(ギザの三大ピラミッド:クフ,カフラ-,メンカフラ-)と大スフィンクス(The Great Sphinx)であり,世界の貴重な文化遺産である。現在,これらの世界遺産が風化・劣化の危機に瀕している状況である。 ピラミッドや大スフィンクスの劣化・風化の主要因は,3つ挙げられる。 約7〜8千万年前より海底で生成され始めた石灰岩は,5千万年前頃地殻変動により隆起し,陸地になった。生成期間が短く構成粒子の結合力も弱い。ギザ大地には明瞭な褶曲運動が認められ,向斜軸が存在する。したがって,材令の若い軟質海成石灰岩層には,褶曲運動による潜在的き裂が多数発生していると考える。また,構成粒子の結合性が弱いため,きわめて多孔質である。このようなことから,実質部分に含まれる塩分が,新たな水分の侵蝕に晒されると溶出し,次に水分が消失すると石灰岩層の多数の微細な空隙の中で再結晶化し,これに伴う膨張現象が内部破壊を促進している。 本研究では,エジプト産モカタム層石灰岩と砂岩を用い,塩分析出試験,静的およびISRN式スレ-キング試験を行い,古代遺跡を形成する岩石の劣化機構の解明を行った。 スレ-キング試験においては,岩種の同じ日本の石と比較検討を行った。結果として,エジプト産モカタム層石灰岩および砂岩は,日本の石に比べスレ-キングしやすく,それに伴い岩石の強度,弾性波伝播速度の低下が見られ,透水係数も上昇することを確認した。乾湿を繰り返すスレ-キングにより,表面的な変化は余りないものの,内部構造の劣化が起こっているという結論を得た。
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