本研究は申請者が以前に見出した新型の電子顕微鏡干渉縞の利用に関するもので、これを用いてマルテンサイトの変態歪を測定することを目的としている。まず、この干渉縞と変態歪とを結び付ける理論式をさらに正確なものとするため、回折条件からのずれをも正しく考慮に入れた式を導出した。つぎに、Cu-Zn-Al合金のベイナイトの電子顕微鏡観察を行い、ベイナイト晶が薄いときに干渉縞が見られることを確かめ、この縞間隔の計測と上述の理論式とよりベイナイトの変態歪を求めた。変態歪として、せん断歪0.18-0.20を得た。この値は同じ合金のマルテンサイトの変態歪とほとんど等しい。このことはベイナイト変態の進行過程に重要な示唆を与えるものである。すなわち、ベイナイト変態については長年にわたる論争があり、せん断歪を伴うかどうかが議論されていたが、本研究によってせん断歪の存在は疑う余地のないものとなった。続いて、同様な研究をAgZn合金のベイナイト変態についても行った。このばあいもマルテンサイトと同程度のせん断歪の存在が明かとなった。つぎに、Cu-Zn-Al合金マルテンサイトの昇温による逆変態について電子顕微鏡観察を行い、同様な干渉縞を見出した。このことは、逆変態もせん断変形により進行することを示している。本年度は主として貴金属合金の場合について調べたが、次年度においては、貴金属以外の合金(Ti合金など)のマルテンサイト及びベイナイトについて、変態歪の有無およびその大きさを調べる予定である。さらに、貴金属合金においても、合金規則度が変態歪に与える影響などについて調べる。
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