本研究は研究担当者らが電子顕微鏡観察で新型の干渉縞を発見したことに端を発している。この干渉縞は薄いマルテンサイト板を含む薄膜試料を電子顕微鏡で透過観察したときに見られるもので、マルテンサイトの変態歪に起因するものであることが明らかになっている。この干渉縞の縞間隔の計測によって、(1)変態歪そのものを求めることができ、また、(2)変態歪が既知の場合にはマルテンサイトの板厚を求めることができる。従来、変態歪は変態に伴う試料の形状変化から求めていたが、この方法では精度の良い値は得られなかった。またベイナイトのように変態生成物が小さい場合には変態歪の測定は不可能であった。このような経緯から、本研究では、新型干渉縞を利用して各種合金のマルテンサイトやベイナイトの変態歪を精度良く求めることを目的とした。なお、変態歪は形状記憶効果の基礎量として重要なものである。 本研究は干渉縞間隔と変態歪および観察条件を表すパラメターとの関係を正確に定式化することからはじめた。得られた式について変態歪の実験値がすでに得られている銅合金マルテンサイトについて実験的に確かめた。次に銅合金のベイナイトについて変態歪測定をおこない、マルテンサイトとほぼ同じ変態歪を得た。これはベイナイト変態の変態機構がせん断歪を伴うものであることを立証する決定的証拠となっており、貴重な成果と考えられる。つぎに、銀亜鉛合金のベイナイトについても変態歪を測定し、この場合も銀合金のマルテンサイトの変態歪とほぼ等しい値を得た。つぎに、変態歪データの乏しいチタン合金のマルテンサイトについて変態歪の測定を行った。その結果、現象論の予測と矛盾しない値を得た。
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