研究概要 |
遮熱構造部材への適応を想定したセラミックス/金属系傾斜機能材料(Functionally Graded Materials,以下FGMと略記)の熱応力緩和設計とその評価に関する従来の研究では,金属相の塑性変形による非弾性効果が全く考慮されていないことが問題であり,これを扱うには構成相レベルでの微視的な応力/ひずみ状態から巨視的な力学応答を解析する微視力学アプローチが不可欠である.本研究では,まず最も基本的な薄肉平板状FGM構造の板厚方向一次元熱流による非定常熱応力を対象とし,筆者らが開発した独自の弾塑性解析法による一連の数値計算を行って,熱応力緩和効果に及ぼす傾斜組成分布の影響を製造時に生じる残留応力の効果も含めて系統的に検討した. 粉体積層ホットプレス焼結によるジルコニア/ニッケル(ZrO_2/Ni)系を例にとって成形後の冷却過程で発生する熱応力分布を調べた結果,10層程度の積層によって連続組成傾斜型と同様の熱応力緩和効果が期待できること,冷却時に面内変形と面外変形を共に拘束すると極めて大きな引脹応力が発生するため成形条件として好ましくないこと,さらに金属リッチな傾斜組成分布にするとセラミックス表面層の割れを抑制する上で有利な圧縮の残留応力状態となることなどを明らかにした.また,温度落差負荷環境下での熱応力については,セラミックスと金属を直接接合した2層材では物性値の不連続性による大きな熱応力が界面近傍に発生するが,組成分布の様々の傾斜化によって熱応力分布は多様に変化し,所定の熱的・力学的条件のもとでの最適な傾斜組成分布が設計できることを明らかにした.一方,実験的アプローチとしては,まず従来困難であった積層型FGM構造における熱伝導率分布の測定に関し,赤外線熱画像システムを応用した新しい定常比較法を開発した.すなわち,スリットを有する円盤状供試体(直径20mm)に所定の温度落差を与え,スリットを介して軸線状の定常温度分布を計測すれば,実際上問題となる一次元熱流条件が概ね満たされ,かつ放射率補正が不要であることを示し,SUS304ステンレス鋼基板上にプラズマ溶射法で形成したZrO_2/Ni-20Cr合金2層皮膜および粉体積層ホットプレス焼結による6層構成ZrO_2/Ni系FGM(各層厚500mm)に関する測定結果を詳しく検討して,本方法の有効性を確かめた.また,FGM構造における熱応力破壊の評価基準として単軸試験での破壊強度を用いる従来の対応は適切ではなく,均等二軸応力下での破壊強度が重要と考え,円盤状供試体に弾塑性変形を許容する球面曲げを与えて均等二軸応力下での破壊強度を評価する新しいディスク曲げ試験法を考案し,ZrO_2/Ni系における破壊強度の組成依存性を微視力学的に検討した.その結果,セラミックス相内に潜在する微小き裂の進展が引き金となって供試体が破壊することを明らかにし,円盤状微小き裂に対する混合モード下でのエネルギー解放率を考察して,セラミックス相内の微視的三軸応力効果をき裂面上の垂直応力の効果に帰着させる“等価垂直応力"を導入し,この値が最大となる方位の亀裂がセラミックス単体の単軸試験によって求められる一定の限界値に達したときに破壊するという新しい破壊基準を提示した.
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