研究概要 |
TiO_2はn型の酸化物半導体であり、光照射下で電流(光電流)の増大にともない電位(光電位)が卑化する。しかも、ここでのアノード反応は水の酸化(H_2O→1/2O_2+2H^+)であってTiO_2そのものの劣化を伴わないため、それより貴な金属材料を比犠牲的にカソード防食できる。本研究では、ステンレス鋼(304鋼)および炭素鋼の上に、ゾルゲル法によってTiO2膜を被覆し、その光電気化学的性質を調べるとともに、防食性能について調べた。 ゾル-ゲル法被覆ステンレス鋼(304鋼)では暗状態においても電位が比較的卑な値を維持する光効果の残存という現象が見られた。スパッタ法被覆鋼およびゾル-ゲル法被覆ITOの電位が光消灯後10分間で200mV以上貴化するのに対し、ゾル-ゲル法被覆鋼については2時間で20mVの貴化に留まる。したがって、このような光効果の残存はゾル-ゲル法被覆鋼特有の現象であるといえる。また、光電位に保持されることの影響を調べるため、1)暗状態で光電位に相当する-400mV.SCEに2時間保持、および2)2時間光照射、後の暗状態での電極電位の経時変化を測定したところ、両者の自然浸漬状態での挙動が一致した。したがって、光効果の残存は光照射時に電位が卑な値に保たれたことによると考えられる。 つぎに、アルカリ性環境で不動態化している鉄への本防食法の適用可能性について検討した。TiO_2を直接被覆した炭素鋼については光効果はあってもわずかで、焼成温度を400あるいは500°Cまで上げても30mV程度の電位卑化にとどまった。TiO_2/鉄-系では、鉄基板とTiO_2被覆との間にある鉄酸化物皮膜(α-Fe_2O_3)の存在が重要である。鉄基板を予備酸化することで、光電位は、500,700および900°Cでは-500mVまで、600および800°CではそれぞれややQTB貴な-350および400mVまで、それぞれ卑化した。通常大気環境における本法の防食効果を調べるため、予備酸化温度を700および900°C、焼成400°C・10min、塗り回数1回、とした試片を比較的穏和な海岸性大気環境(東京商船大学清水臨海実験実習所、静岡県清水市)に暴露した。これら試片は4箇月以上経過しても発錆しなかった。さびも酸化皮膜の一種と考えた場合、これをα-Fe_2O_3にかえた後にTiO_2を被覆できれば、面倒なさび落としの不要な塗装系-さび上塗料-を開発できる可能性がある。
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