研究概要 |
ステンレス鋼では、250℃で焼成した場合に光電位が最も卑になった。300℃以上で焼成すると、光照射下での電位卑化が生じなくなるとともに、場合によっては、被覆が溶解してしまうこともあった。被覆層を分析した結果、膜中にはステンレス鋼の主成分であるFe,CrおよびNiが検出され、焼成時におけるこれら元素の被覆層中への拡散が影響しているものと考えられる。最適条件下で作製したTiO2被覆鋼の光電位は約500mV.SCEまで卑下し、3%NaCl水溶液中での304鋼の金属/金属-すきまでの再不動態化電位-400mVより卑になった。すなわち、光照射下では、すきま腐食をも防ぐことができる。実際の太陽光を照射しつつ光電位を測定すると、夜間でも-300〜-200mVというかなり卑な電位を保った。このような光効果の残存により、夜間においても防食が行える可能性が示された。この効果は、ゾル-ゲル法被覆鋼特有の現象であり、光照射時に電位が卑な値に保たれたことによる。 Cuについては、TiO2の結晶化温度(約400℃)より高い600〜700℃で焼成すると光電位が最も卑になった。これは、表面に存在するCuの酸化物の影響であり、最適温度以下の温度で焼成した場合でも、その酸化物を予め十分にカソード還元すると、光電位の卑下が生じた。ここでの光電位は不感域にあり、Cuを熱力学的に金属が安定な電位にまで卑化させることで防食できることがわかった。 つぎに、アルカリ性環境で不動態化している鉄への本防食法の適用可能性について検討した。TiO_2を直接被覆した炭素鋼については光効果はあつてもわずかで、焼成温度を400あるいは500℃まで上げても30mV程度の電位卑化にとどまった。TiO_2/鉄-系では、鉄基板とTiO_2被覆との間にある鉄酸化物皮膜(α-Fe_2O_3)の存在が重要である。鉄基板を予備酸化することで、光電位は、500、700および900℃では-500mVまで、600および800℃ではそれぞれやや貴な-350および-400mVまで、それぞれ卑化した。通常大気環境における本法の防食効果を調べるため、予備酸化温度を700および900℃、焼成400℃・10min、塗り回数1回、とした試片を比較的穏和な海洋性大気環境(東京商船大学清水臨海実験実習所、静岡県清水市)に暴露した。これら試片は4箇月以上経過しても発錆しなかった。
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