本年度の研究成果は以下のとおりである。 1.電解析出法によって、電極上に La(III)-Cr(VI)の前駆体皮膜を形成することができこれを熱分解することによりクロムの異常原子価状態酸化物、LaCrO_4、の薄膜を形成できる条件は既に明らかにしたが、今年度はさらに、前駆体→LaCrO_4→LaCrO_3という熱分解の機構およびLaCrO_4の熱安定性を詳細に検討した。また、LaCrO_4を厚さ4μm程度の膜状に成型して、常温から600℃程度(大気中におけるこの化合物の安定存在領域のほぼ上限)までの導電性の検討を行なった。現在のところ、理論密度までの加圧成型はできていないが、この物質はペロブスカイト型LaCrO_3と同様に、温度と共に電気抵抗が減少する半導体型の導電特性を持ち、しかもより導電率が高いことが分った。 2.モリブデン酸アンモニウムと硫酸マグネシウムの混合溶液中で、アルミニウムなどの金属電極をカソード分極することにより、Mo(V)-Mo(VI)系の混合原子価酸化物薄膜を形成できる条件を見出した。また、直流に交流を重畳したり、パスル電解を行なうと、短時間で黒色のビロード状皮膜を形成できることも分った。この黒色皮膜の分光特性を調べた結果、紫外〜可視領域での光吸収率は90%以上と大きいが、波長4〜10μmの赤外領域では20〜30%と少なく、10μmより長波長側の遠赤外領域で再び90%以上の吸収率を示すことが分った。すなわち、この混合原子価酸化物薄膜は遠赤外放射体として機能することが明らかとなった。皮膜の形成条件と分光放射特性との関連について、さらに検討中である。
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