当該年度は、本研究補助金により購入したSTM制御用ワークステーションと既存のSTM高温加熱ステージとの接続を行い、表面構造が既に確立されているInSb(111)A-(2×2)清浄表面の観察を通してその装置の性能を評価した。その結果の概要を以下に示す。 STM観察は、超高真空中でSb_4分子線を照射しながら、基板温度460℃に加熱して清浄化したInSb(111)A面を、定電流モード(試料バイアス電圧+1.2V、トンネル電流10pA)の測定条件で行った。得られたSTM像には、(2×2)周期をもつ三回対称の輝点が見られ、(2×2)再配列構造の存在を示唆する。InSb(111)A-(2×2)表面は、Inの空孔が周期的に形成された、In-vacancy buckling modelであることが広く認められている。この表面では、再構成により表面ダングリングボンドが消失し、最表面In原子には非占有軌道が、空孔に近接するSb原子には非共有電子対が存在していると考えられる。したがって、InSb(111)A-(2×2)表面の非占有状態STM像の輝点は、最表面In原子に存在する非占有軌道に、暗部はIn原子の空孔に、それぞれ対応すると言える。 以上の結果は、STM制御用に購入したワークステーションとSTM高温加熱ステージとの接続に成功したこと、さらに、原子レベルの分解能をもったSTM観察が可能となったことを示す。
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