研究概要 |
昨年度までの研究において,O-アルキルおよびO-アシルメントール誘導体の経皮吸収促進作用をラットによりスクリーニングした結果,O-エチルメントールにきわめて強力な吸収促進活性を見出した.そこで今年度はO-エチルメントールに着目し,促進機構の解析,皮膚刺激性の検討ならびに臨床応用を目指した薬理活性試験を実施した.なおモデル薬物として昨年度と同様にケトプロフェンを用いた. ケトプロフェンのin vitro皮膚透過,in vivo経皮吸収および薬理活性において,O-エチルメントールは0.5%程度の極めて低濃度から十分な活性を発現し,同等の促進活性をメントールで得るためには少なくとも2〜3%の高濃度が必要であった。皮膚を均一な一枚膜と仮定し,Fickの第2法則より導かれた拡散式より累積透過量-時間曲線を解析した結果,O-エチルメントールはケトプロフェンの皮膚中での拡散性の増大に寄与することが示された. 薬理活性におけるケトプロフェンの抗炎症効果の評価より得られた浮腫率時間曲線下面積とin vivo経皮吸収活性評価より得られた血中濃度時間曲線下面積の間には良好な相関性(r=0.940)があり,経皮吸収による持続的な抗炎症作用が確認された。 ヒドロゲル適用後の皮膚表面の組織学的検査によって得られた刺激スコアより,O-エチルメントールの皮膚に対する刺激作用は濃度に依存して増大することが認められた。これに対し,経皮吸収促進活性は極めて低濃度から得られたことより,吸収促進活性と皮膚刺激性の発現部位は異なることが示唆された。 皮膚表面の形態変化を走査型電子顕微鏡および共焦点レーザー顕微鏡により観察したところ,O-エチルメントールを含有するヒドロゲルを皮膚に適用すると,表面の角質細胞が低濃度から明確に識別できるようになり,さらに未処理皮膚に比べて表面構造の平滑化が見られた。したがって、O-エチルメントールは角質細胞間隙の脂質部分に分配し,この部分の構造を変化させることによって薬物の皮膚透過性を改善させるものと考えられる。
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