平成6年度は、アブダクションシステムを構成するための原理的な検討をおこなった。ある理論を仮定し、質問に対する説明をある制約条件下で与えるアブダクションを対象として、つぎのような研究成果を得た。 (a)演繹などによる推論全体を関数(の不動点)によって把握する問題が、アブダクションなどの非単調推論においても重要であるので、まず、単調性が保証された推論系において関数による把握が可能となる方法を明らかにした。 (b)古典的な否定を失敗による否定(negation as failure、以下NAFと略す)として扱える一般論理プログラムに基づくアブダクションの枠組を再検討し、NAFを一般化して全称記号により束縛された説明を枚挙する方法に到った。同時に健全であることを示した。これは従来の方法、すなわち、質問に対して具体化された説明を得るアブダクションの枠組に関する詳細化である。 (c)NAFを適用する証明系の把握のために単調関数の不動点理論を使い、有限失敗する述語の全体、すなわちアブダクションの枠組による説明(の候補全体)がどのように規定できるかを明らかにした。この結果は、全称記号で束縛された述語の有限失敗に関する表示的意味づけであり、(b)におけるアブダクションの枠組において説明を枚挙してゆく手続き論の基礎を与えるものである。 (d)アブダクションのインプリメント技法は、次年度で展開されなければならないが、その準備として、一般論理プログラムを包含したクラスの拡張論理プログラムに基づくアブダクションシステムを検討した。拡張論理プログラムにおいては、古典的な否定とNAFが扱われなければならないので、アブダクションのモデル論的な扱いに重要な問題を見い出し、その解決がインプリメント技法のために不可欠であることを認知した。このため、拡張論理プログラムに基づくアブダクションのモデル論を継続して検討している。 (e)NAFを包含した「矛盾による失敗」(negation as inconsistency、NAIと略す)の性質を吟味して、二重否定問題を解決した。NAIとアブダクションの関連は引き続き研究してゆく。
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