研究概要 |
本年度は、まず、Am-241、Am-243試料について、イオン交換樹脂を用いた化学精製法により、不純物であるU、Np、Pu、Cmなどを除去した後、Am-241とU-235、及びAm-234とU-235の電着膜を一緒に背中合わせに封じた型の核分裂電離箱を用意した。京都大学原子炉実験所に付設される鉛スペクトロメータ(KULS:一辺が1.5mの立方体、総重量約40トン、鉛の純度:99.9%)のビスマス実験孔に、この電離箱を挿入して〜0.1eVから10keV領域の241Am(n,f)及び243Am(n,f)反応断面積を測定した。U-235試料は235U(n,f)反応断面積を標準として使用するもので、これを基準としてAm-241,243の核分裂断面積を測定した。 241Am(n,f)反応断面積の評価済核データファイルENDF/B-VIおよびJENDL-3.2を本実験の結果と比較すると、2〜4eV領域を除けば全体によい一致をしている。しかし、JENDL-3.2に関しては、22〜140eV領域で実験値より1.2〜2.3倍小さい。従来の実験データとの比較では、熱中性子から高速中性子領域まで広い範囲で測定されたDabbsらのデータは本実験値と全体によい一致を示したが、他の実験者によるデータは限られたエネルギー領域での測定が多く、我々の実験値との一致も必ずしもよくないことが分かった。 京大研究炉KURにおける標準熱中性子場においても、鉛スペクトロメータとほぼ同じ実験手法によって、241Am(n,f)反応の熱中性子断面積を測定した。その結果は先の評価データとよい一致を示した。実験データについては、1950年代から1970年代に測定されたものが多く、全体には誤差の範囲で我々の測定値に近いことが分かった。このことは、Am-241試料の不純物が先の鉛スペクトロメータ実験の結果に影響していないことの裏付けにもなっている。 243Am(n,f)反応断面積も、241Am(n,f)反応断面積の場合と同様の方法によって測定を行った。まだ予備的な段階であるが、その結果をENDF/B-VI及びJENDL-3.2評価データと比較すると、前者は概して本実験値と一致の傾向にあるが、15〜60eV領域では低すぎる。また、JENDL-3.2データは本実験値に比べて100eV以上で全体に低目の傾向にあることが分かった。
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