収縮中の骨格筋細いフィラメントとATP加水分解中のミオシン頭部のX線解析-マトミックデータによる解析

1995 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 06452443
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 若林 克三 大阪大学, 基礎工学部, 助教授 (00029521)
• キーワード: X線回折 / X線溶液散乱 / 筋収縮 / ミオシン頭部 / アクチンフィラメント / シンクロトロン放射光 / アクトミオシン複合体 / イメージングプレート

研究概要

[1]カエル骨格筋収縮中の細いフィラメントの構造変化
前年度までにシンクロトロン放射光を用いた等尺収縮時の骨格筋のX線回折実験によるアクチンフィラメントのスペーシングの精密測定と中角領域まで(〜13A)のアクチン層線反射強度の精密測定が完了した。前者の解析から0.2-0.3%のアクチンフィラメントの伸びを発見し、従来の筋収縮モデルに再考を迫った。今年度は後者の回折データを使って具体的なモデル計算を行った。その結果、収縮中の電子密度の変化は細いフィラメント内部にあり、ミオシン頭部の結合を直接示唆するような変化はなかった。このことから、収縮中のミオシン頭部の相互作用を受けることによって細いフィラメントの内部構造が変化していることが明らかとなった。さらに結晶データを使って、この構造変化をフィラメントのアクチンモノマーのドメイン構造を変えることで解析した。その結果、弛緩状態に比べて収縮中ではアクチンモノマーのサブドメイン2がフィラメント内側へ、サブドメイン1と4が中心から数A離れる方向に移動した。トロポミオシンは方位角方向へ約5A、サブドメイン3と4から離れる方向へ移動し、カルシウム制御の立体障害説と言うよりむしろアクチンの構造変化に伴った変化と考えられる。
[2]ATP加水分解中のミオシン頭部の構造変化
ミオシン頭部がATPを加水分解しているときグローバルな分子構造の変化が起こるかどうかをX線溶液散乱法で調べてきた。慣性半径において約3Aの減少を観測してきたが、さらに散乱カーブを結晶データを使ったモデル計算フィティングにより活性時の構造変化を精密解析した。その結果、分子の中央付近で曲がるような変形で、分子の長袖を含む面からはずれる方向に12°、その平面内で10°傾くような変化であり分子の尾部を約20A動く変化に相当した。またADP.AlF_4やADP.BeF_2アナログを作用させたときの構造はATP加水分解中に相当していた。またADPを作用させたときはATPに比べると変化は小さく約1/2であった。
[1]、[2]を統一的に説明するモデルを模索中である。

研究成果

• [文献書誌] 若林克三: "X線溶液散乱法で捉えたエネルギー変換中のミオシン頭部の構造変化" 生物物理. 34. 131-135 (1994)
• [文献書誌] 若林克三: "シンクロトロンX線回折による筋収縮の研究" SR科学技術情報. 4. 7-16 (1994)
• [文献書誌] Y.Amemiya: "Large-aperture TV detector with a beryllium-windowed image intensifier for X-ray diffraction" Rev.Sci.Instrum.68(2). 2290-2294 (1995)
• [文献書誌] Y.Sugimoto: "Conformational changes of the myosin heads during hydrolysis of ATP as analyzed by X-ray solution" Biophys.J.58. 29s-34s (1995)
• [文献書誌] N.Yagi: "A real-time observation of X-ray diffraction from frog skeletal muscle during and after slow length changes" Japan.J.Physiol.45. 583-606 (1995)
• [文献書誌] 雨宮慶幸: "X線回折実験用のテレビ型2次元X線検出器の開発" Photon Factory News. 13. 21-24 (1995)
• [文献書誌] 若林克三: "時分割小角X線散乱による低次構造の動的変化" KEK Proceedings. 95-8. 32-35 (1995)
• [文献書誌] H.Tanaka: "The time for movement of myosin heads from thick to thin filaments is negligibly small" Proc.ICSRS-AFSR'95. (印刷中). (1996)