研究概要 |
ポリエチレンテレフタレート繊維あるいはナイロン繊維を芯糸とし,この周りにトワロン繊維を鞘糸として1m当たり500回または800回螺旋状に巻き付けて複合糸を作製した.この複合糸について,生理食塩水浸漬試験,生理食塩水中での疲労試験,ラット皮下埋植試験を行い,以下の結果を得た. 1.複合化により,すべての複合糸でトワロン繊維よりも剛性が小さくなった.トワロン繊維を500回巻き付けた複合糸では,生理組織にみられるようなJ字形の荷重-ひずみ関係が現れた.しかし,トワロン繊維を800回巻き付けた複合糸では,荷重-ひずみ曲線は,それぞれの芯糸の曲線とほぼ同一であり,複合の効果がほとんど現れなかった. 2.芯糸にナイロン繊維を使用した複合糸では2×10^6回の繰り返し変形や生体内埋植により力学的強度がかなり低下したが,芯糸にポリエチレンテレフタレート繊維を使用した複合糸ではほとんど低下しなかった. 以上の結果から,ポリエチレンテレフタレート繊維の周りにトワロン繊維を1m当たり500回巻き付けた複合糸が人工靱帯の素材として有望であることがわかった.そこで,さらにこの複合糸についてコレステロール脂質溶液中での疲労試験や家兎の膝蓋骨-脛骨間への移植を行い,疲労挙動について検討し,以下の結果を得た. 3.ピーク荷重が50N以下での疲労試験では,繰り返し数が10^7回を越えても複合糸は破断しなかった.疲労試験終了後にこの複合糸の引張試験を行った結果,破断荷重は低下したが,剛性は変化しなかった. 4.膝蓋骨-脛骨間への移植により,1ヶ月後では破断荷重が低下したが,その後の1ヶ月間は破断荷重に変化は見られなかった.また,期間によらず剛性には変化は見られなかった.
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