研究概要 |
海洋の物質循環を地球規模で明らかにしていくためには様々な海洋環境の下でおこる特徴的な物質循環の過程を海洋の表層の外部入力に対する応答としてその因果関係を明らかにしてそれを地球規模に拡張することが必要である.本年度は海洋表層での懸濁粒子と沈降粒子との関係を明らかにするために,アラスカ湾で得られた,それらの炭素,窒素安定同位体比の詳細な鉛直分布を比較し,解析した. その結果,1)懸濁粒子濃度は表層から有光層下部にかけて急減するが沈降粒子フラックスは有光層下限付近に極大を持つ,2)窒素同位体比に関しては,有光層では懸濁粒子,沈降粒子の双方が0-1パ-ミルと低い値を持つが,有光層以深では懸濁粒子は7パ-ミルに急増するのに対し沈降粒子はほぼ一定の低い値を示す,3)炭素同位体比では,沈降粒子がほぼ-24パ-ミルと一定の値を示すのに対して,懸濁粒子は表層付近で沈降粒子と等しく有光層下限で-26パ-ミルの極小値を取る,4)沈降,懸濁粒子ともC/N比は表層から深さと共に徐々に増大する,ことなどがわかった.以上の結果は有光層下部で活発な沈降粒子の形成と分解がおこっていること,有光層下部がフラックスの極大を示す沈降粒子は表層起源であること,などを意味している.また今回,有光層下部において懸濁粒子の炭素同位体比が極小を示したことは,従来海洋では無視されてきた,有機炭素からの二酸化炭素の再生-再取り込みの過程を反映していると思われ興味深い.
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