本年度は、1995年7〜8月に実施された東シナ海における航海の際、^<13>Cをトレーサーとした実験を実施した。この際得た溶存態有機物試料と、同じく東シナ海よりこれまでに得た試料について、主として2項目について検討を行い、以下の結果を得た。 1.溶存態有機物に含まれる脂質成分の脂肪酸組成 溶存態有機物からクロロホルムを用い脂質成分を抽出した。脂質成分に含まれる脂肪酸組成をガスクロマトグラフにより明らかにした。その結果、溶存態脂質を構成する脂肪酸の組成は、安定と思われる飽和脂肪酸を多く含み、不安定な多不飽和脂肪酸の含量は極めて少なかった。これは、懸濁態脂質が、他種類の多不飽和脂肪酸を含むのとは対照的であった。 2.溶存態脂質の^<13>C同位体比 溶存態脂質を構成する脂肪酸の^<13>C同位体比を、ガスクロマトグラフ-質量分析計を用いて明らかにした。脂肪酸の^<13>C同位体比は^<13>Cトレーサー実験の前後でほとんど変化しない測点が多かった。これは、溶存態脂質の植物プランクトンによる生成が、極めて少ないことを示唆するものである。一方、植物プランクトンの豊富な側点では、数種の脂肪酸の同位体比等が増加しており、このような海域では溶存態脂肪酸の生成があることが確認された。しかし、その生成速度は、懸濁態脂肪酸の生成速度の5%程度に相当するのみであった。
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