当初の研究計画に沿って、本年度は装置の開発に重点を置いて研究を進めた。装置の主要部分であるレーザー光脱離・光電子分光計を設計・製作し、さらに、弱磁場による低速電子の閉じ込めを利用した高感度しきい電子分光装置の開発に着手した。装置の全体は、クラスター負イオン源、飛行時間型質量分析計および光電子分光計で構成されている。特に、光電子分光部には、ビーム中に極めて低濃度で存在するクラスター負イオンの光電子スペクトルを得るために、全立体角に対して約70%の捕集効率を持つ高感度の磁気ボトル型分光計を採用した。 装置の開発と並行して、分子科学研究所との共同研究によって[(CO_2)_2H_2O]^-の幾何構造・電子構造に関するab initio計算を行った。この結果、(CO_2)_2^-あるいはCO_2^-をイオン核とする二種類の構造異性体が存在することなど、気相分子集合体に特有な電子束縛状態の様子が明らかになった。この計算結果は、同一の組成を持ちながら幾何構造・電子構造が極めて異なる気相分子集合体が得られる可能性を示しており、本研究を進める上で重要な成果である。これまで、余剰電子の局在状態の異なった構造異性体が共存する例は少なく、[(CO_2)_m(H_2O)_n]^-系は幾何構造・電子構造と光反応ダイナミクスとの相関を調べるために最適なモデル系のひとつといえる。 平成7年度は製作した装置を用いて実質的な測定を行う。[(CO_2)_m(H_2O)_n]^-系のように構造異性体が共存する系について、電子が局在している領域(分子あるいは分子団)の構造の違いを実験的に明らかにすると共に、光誘起反応(例えば、[(CO_2)_m(H_2O)_n]^-からのCO_3^-の生成過程)について構造とダイナミクスとの相関を明らかにする。
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