イオン工学やプラズマ技術の分野で低エネルギーイオンと固体の衝突現象を利用した応用技術が発展しているが、基礎過程の詳細があきらかにされていないため、さらに高度な応用のための指導原理の解明が急がれている。本研究は、0-数keVの低エネルギーイオンと極薄膜の衝突相互作用を詳細に検討し、衝突素過程を解析することを目的としている。 超高速真空排気装置に、新たに設計・製作したリフレクトロン型飛行時間型質量分析計を取り付けた。この装置は、入射イオンを試料面に対して垂直に入射できるという従来にない画期的な方式を採用している。このため、入射イオンの衝突エネルギーを極めて厳密に制御することが可能となった。イオン反射電極系の最終電極を極低温冷凍機のコールドヘッドに圧着したシリコン基板とした。これに種々の気体試料を超高真空下(10^<-10>-10^<-11>Torr)で真空蒸着した。このファンデルワールス薄膜に、希ガスイオンを衝撃し、発生する二次イオンの生成メカニズムの詳細を検討した。その結果、以下のような新しい知見を得た。 1.サイズの小さいHe^+イオン衝撃では、運動量移動は起こりにくく、固体中の原子・分子の電子励起が起こりやすい。生成したホールや励起子が固体マトリックス中でフォノンエネルギーに移行し、イオンのスパッタリングに寄与する。 2.Ne^+衝撃では、He^+に比べて運動量移動が起こりやすく、イオンスパッタリング効率がHe^+に比べてはるかに大きくなる。また、He^+イオン衝撃では、検出されないクラスターイオンが強く観測される。これは衝撃波の発生を示す。 3.希ガス薄膜のイオン衝撃により、マトリックス中に生成したホール及び励起子が長距離拡散し、下層の分子を蒸発・イオン化させることが分かった。これは、新しい表面析法として発展する可能性を秘める。
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