研究概要 |
本研究の目的は回転異性化反応の反応速度定数の粘度依存性を調べ、実験結果と反応速度についてのKramersの理論やGroteとHynes理論との比較・検討を行ない反応速度定数に対する溶媒効果を明らかにしようとするものである。 今年度は、これまでsec-臭化ブチルの回転異性反応による超音波緩和スペクトルの粘度依存性を、1MHzから7MHzを共鳴法、10MHzから300MHzをパルス法、200MHzから500MHzを高分解能ブラッグ反射法を用い測定した。今回,購入したパルス法測定装置はパルス領域の測定に使用した。溶媒としては、低粘性溶媒としてn-ヘキサン、高粘性溶媒としてフタル酸ジイソブチルを用いた。測定粘度範囲は4〜200x10^<-4>pa・sであった。 超音波緩和スペクトルの解析から緩和周波数、緩和強度を求めた結果、何れも粘度依存性を示した。さらに、緩和周波数より回転異性化反応による反応速度定数を計算した。Kramersの理論やGroteとHynesの理論から求めた反応速度の粘度依存性は、低粘度域で実験結果を再現したが、高粘度領域では実験値から大きくずれることが明かとなった。また、緩和周波数の温度依存性より各溶媒組成での回転異性化反応に対する活性化エネルギーを決定したところ、活性化エネルギーは粘度が低下するにつれ19kJ/molから17kJ/molとなり、わずかに粘度依存性が観測された。高粘度側での理論からのずれは、この活性化エネルギーの粘度依存性を考慮しても説明することはできず、回転異性化反応に伴うエンタルピー変化を含めたポテンシャルの形が溶媒との相互作用により変化していると考えられる。このことは、回転異性化反応に伴うエンタルピー変化や体積変化の情報を含む緩和強度が粘度に依存すると言う結果と矛盾しない。次年度は、Raman散乱法を用いさらに詳細に検討する計画である。
|