水素原子-水素分子トンネル反応は最も単純な科学反応系であり、反応におけるトンネル効果の関与を検討する上で重要である。また極低温にすると熱による反応が抑えられ、トンネル反応だけを取り出して研究することが出来る。極低温におけるp-H_2の回転量子状態(J)はJ=0である。o-H_2のそれはJ=1である。通常のn-H_2の75%はo-H_2であるから、p-H_2とn-H_2とを用いることにより、トンネル反応に対する回転量子状態の影響を調べることが出来る。H原子の反応はESR測定から、T原子の反応はラジオガスクロマトによるHT生成物の分析により研究した。速度定数の比[k(H_2(J=0)/k(H_2(J=1))]はH、T原子の場合それぞれ3.6と4±2となった。このことは、回転量子状態のエネルギーが低いH_2(J=0)の方がH_2(J=1)よりも反応し易いことを意味している。この原因として、H_2(J=0)分子は等方的な配向をするが、H_2(J=1)分子は或る方向で回転しているため反応確率が低下するためと思われる。これらの結果は1994年モスクワで開催された第1回低温化学国際会議で招待講演として発表した。 これまでのトンネル反応は水素原子が移行する反応ばかりであった。今回、H_2分子がトンネル効果によってアルカンイオンから脱離するという新しいトンネル反応を見出した。本年度、実験は終了したので、結果の解析と理論的検討に取りかかっている。
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