物理化学の大きい目的の一つに、化学反応をより理解するための新しい手法の開発があげられる。例えば反応における体積変化(ΔV)、エンタルピー変化(ΔH)、反応による溶媒配向変化などは古くから重要な量として認識されているが、他の発光や吸収測定による速い時間スケールでの詳細な研究結果と比べて、感度や時間分解能の点などに問題があり、反応機構の解明に深く踏み込めない状態にある。ここではレンズ効果の新しい成分を用いて、これまでにない分光法の開発を行い、化学反応系へ応用することを提案する。本研究補助金によりYAGレーザーや多くの光学素子等を購入することができ、光学系の設置に大きく役だった。 これまで熱レンズ法は多く使用されてきたが、誰もその成分が熱による溶媒の密度変化を伴った屈折率変化のためであることを疑った人はいなかった。ここでの研究により、ポピュレーションレンズ、温度レンズ、カーレンズ、体積レンズのような種々の成分を新たに発見し、分離および定量法を開発した。こうした成分のため、「熱レンズ法」といこれまでの名称は正確ではなく、新たに「過渡レンズ法」という名称を提唱している。また過渡回折格子法を用いても、温度グレーティング、クラスターグレーティング、体積グレーティングなどの種々の成分を同定できた。上記のような種々の成分をジフェニルシクロプロペノンの光解裂反応へ応用した。体積レンズあるいは体積グレーティングを検出することで初めて、温度一定、溶媒一定の下で測定することができた。過渡回折格子法を用いて、反応中間体として生成するラジカルの拡散の問題についても大きな進展が見られた。こうした成果は大きく分けると、2つの意義を持つ。1つには、この存在を無視して解析されたデーターは、全く誤った結論を導く可能性を持つことを指摘した点。もう一つは、これらの成分を積極的に利用することで、全く新しい測定が可能となることを示した点である。化学反応への応用についても、これらの手法を用いて新しい知見を得ることができた。
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