研究概要 |
超音速ジェット中の孤立分子やファンデルヴァールス錯合体の吸収スペクトルと蛍光励起スペクトルの同時測定が、当初の予定を遥かに越える高感度で行える測定系を組み上げることができた(発表論文1)。最大の利点は、無蛍光性の振電準位や錯合体の検出が可能なことである。このような測定装置系は現在どこにもなく、極めて広範囲な新しい研究への道を拓いた。研究期間内に取り上げたテーマは次の通りである。 1.状態選択的励起緩和と熱平衡分布:9CNA-Xe(9-シアノアントラセン-キセノン)のファンデルヴァールス錯合体についての吸収・蛍光励起スペクトルの同時測定から、振電準位12^1_0から特異的な緩和が起こることを見出した。これは超臨界流体Xe中での蛍光緩和が温度に依存するXeの重原子効果を受けることと一致し,熱的活性化の分子論的説明が可能となった。 2.蛍光消光と酸素コンプレックス:蛍光消光反応の中間体を探るために、超音速ジェット中で9CNAとO_2分子との間に形成される錯合体の発見に努めた。希ガスは勿論、ヨウ素分子や炭酸ガス分子との間に形成される錯合体は容易に発見できたが、O_2分子については、あらゆる努力にも拘わらず、未だに成功していない。 3.無蛍光アントラセン誘導体の無輻射遷移過程:9-ベンゾイルアントラセンでは他のアントラセンと異なり、吸収バンドは極めてブロードで、蛍光励起スペクトルは全く観測されなかった。これは数Kという熱的活性が事実上抑制された状態でも、極めて速い無輻射過程が起こっていることを示す興味深い結果である。 4.Partially Cooled Stateの緩和過程:吸収バンドと対応する蛍光励起スペクトルのバンドの強度比から、熱的活性がどのように無輻射緩和過程を促進するかを探る実験法が確立できた。予想を遥かに越える大きな成果と今後の研究の展開を思うと高揚を禁じ得ない。
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