研究概要 |
本研究補助金で購入した四重極質量分析管を装備した反応セルを中心に、マイクロ波イオン源、高速排気系、発光観測系から成るクラスターイオンビーム装置を試作した。装置の試作後にArN_2^+クラスターイオンと低級炭化水素(CH_4,C_2H_2,C_2H_4,C_2H_6,C_3H_6,C_3H_8,n-C_4H_<10>,iso-C_4H_<10>)との反応を質量分析法を用いて系統的に研究した。各反応でのイオンの生成分岐比と生成速度定数を高精度で決定した。実測の生成イオン分岐比を既知の親イオンの分解曲線と比較することによりArN_2^+クラスターイオンとイオン化電圧の低い低級炭化水素との反応では、近共鳴電荷移動で反応が進行することがわかった。また標的分子のイオン化電圧の効果を検討するためにArN_2^+とCO_2、Krとの反応を研究した。その結果、イオン化電圧の高いCO_2、Krではイオン化直前にArN_2^+のAr-N_2間の核間距離が伸びることを発見した。これはAr-N_2^+間のvan der waals結合エネルギーが通常の共有結合のイオンよりも小さいためと結論した。さらに標的分子の永久双極子の効果を検討するためにArN_2^+とCH_3Cl、CH_2Cl_2との反応を研究し、これらの永久双極子を持つ分子のイオン化過程は、永久双極子を持たない低級炭化水素と同様に近共鳴的に進行することを見いだした。これよりクラスターイオンの反応性は、標的イオンのイオン化電圧に強く依存するが、永久双極子には依存しないという新知見を得ることができた。ArN_2^+イオンの反応速度は、標的分子のイオン化のフランク・コンドン因子に依存せず、研究したいずれの反応でもLangevanまたはADO理論値に近い値が得られた。このことから、ArN_2^+の電荷移動反応は、遠距離での電子移動で進行することがわかった。
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