1.本研究は、多原子分子の高励起状態において「振動運動がどのように周期的運動からカオス的運動へ移行するのか?」また、「その変化をもたらすダイナミックスは何か?」という疑問に答えることを目標とする。 2.この目標に沿って、多原子分子の振動量子準位の構造を広いエネルギー領域にわたって測定し、その準位エネルギーが基準振動のような周期的運動から説明できる限界を求める計画を立てた。高感度多チャンネル分光器を設置し、特定の回転振電準位の励起分子の発する蛍光分散スペクトルを測定し、電子基底状態の振動準位のエネルギー準位構造を分子振動の運動ダイナミックスに基づいて検討した。 3.2酸化イオウ、2酸化窒素、アセチレンの各分子の振動量子構造の検討より、これらの準位は振動モード間の非調和共鳴のために階層的な構造をとることが判明した。すなわち、モード間の結合は、一般にエネルギー的に共鳴な準位間で起こり、特定のモード群が部分的なカオス的状況を作り出す。このような段階を経て、全モードが結合する状態に到達する。このような階層的な準位構造が、広いエネルギー範囲にわたる振動スペクトルに反映されることを確認した。 4.アセチレンの振動高励起状態では、3段階以上の階層的準位構造をもつことを見出しているが、本研究では、とくにアセチレンの前期解離状態の固有関数の形状を蛍光スペクトルから追究する手掛りも得た。この結果は、解離反応の遷移状態を分光学的に観測する道を開くものである。
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