平成6年度に試作したF/1.8-時間分解ラマン分光器を用いて次の2つの課題についての研究を進めた。これらの研究成果は、本年8月に開催される第15回国際ラマン分光学会議(アメリカ、ピッツバーグ)で発表される予定である。 (1)時間分解内部反射ラマン分光法による液晶分子の電場配向過程の研究 高屈折率円筒型プリズムの底面に室温でネマティック相を形成する4-n-hexy1-4'-cyanobiphenyl(6CB)の液晶セルを作製し、全反射条件下における時間分解ラマンスペクトル(時間分解能15ns)の測定した。高屈折プリズム相/ITO相/配向膜相/液晶相の4相系に対し液晶相の光学的異方性を考慮してダイレクターの回転に伴うラマン散乱強度の理論計算結果をもとに測定結果の解析を行い、電極近傍での液晶分子の電場配向過程を明らかにした。また、その結果を同一条件で作製した赤外透過型液晶セルについての時間分解赤外スペクトル測定結果から明らかにされたバルク相における電場配向過程と比較することによって、電極近傍での液晶分子の電場配向過程が、液晶セル作製時における表面配向処理が配向過程におよぼす影響について検討した。 (2)テトラメチルベンジジン(TMB)の電極酸化反応過程についての研究 白金電極表面上またはその近傍で、TMBの1および2電子酸化で生じるモノカチオンラジカル(TMB+・)とジカチオン(TMB2+)の生成機構を、時間分解ラマン分光法を用いて調べた。その結果、1電子酸化過程は、最初に遊離のTMB+・が生成した後、Charge-Transfer(CT)錯体へ変化する2段階反応であることが分かった。更に、2電子酸化電位(0.95Vvs.Ag/AgCl)では電極表面にラジカル塩が析出することを見いだし、その電析過程が、(i)TMB2+の生成、(ii)TMB2+と溶液中のTMBと均一化反応によるTMB+・の生成、(iii)TMB+・のCT錯体形成の3段階反応であることを明らかにした。
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