研究概要 |
最近開発された光透過性格子は、従来の回折格子分光器に比べてエネルギー損失と収差のはるかに小さな分光器を可能とした。本研究では、このような分光器を用いて時間分解高感度ラマン分光器を作製し、従来のラマン分光器では不可能であった、電極表面近傍に過渡的に生成する分子の配向や構造変化の追跡を可能とし、次の研究を進めた。 【1】バクテリオクロロフィルaカチオンラジカルの共鳴ラマンスペクトルの溶媒効果に関する研究 光合成細菌における光反応中心で重要な役割を果たすバクテリオクロロフィルa (BChl a)のカチオンラジカル(BChl a^+)を14種類の溶媒を用いて電極表面に生成し、その吸収スペクトルと共鳴ラマンスペクトルの溶媒効果を調べ、BChl aの1電子酸化にともなう配位状態(5-または6-配位)と溶媒和状態の変化と共鳴ラマンスペクトル変化との相関を明らかにした。また、その結果を用いて、電極分離状態におけるBChla^+の構造について検討した。 【2】時間分解共鳴ラマン分光法によるベンジジン気化学的酸化反応過程に関する研究 3, 3', 5, 5'-テトラメチルベンジン(TMB)の1-電子および2-電子酸化過程と生成物の構造を時間分解ラマン分光法を用いて、詳しく調べた。その結果、1-電子酸化で生成するモノカチオンラジカル(TMB^+)はただちに不均化反応でジカチオン(TMB^<2+>)とTMBとなり両者が電荷移動錯体を形成すること、CT-錯体ではTMB^<2+>が2個のプロトンを脱離して強い電子受容体となっていることなどを明らかにした。 【3】時間分解全反射ラマン分光法によるネマチック液晶セルの電場配向過程に関する研究 ネマチック液晶セルにおいてSiOx斜方蒸着膜などの配向層と液晶分子との相互作用の電場応答に及ぼす影響については、間接的な測定結果をもとに推論するにとどまっていた。本研究では、全反射ラマン分光法をもとに配向層近傍の分子構造や配向を選択的に追跡する方法を開発した。そして、4-n-ヘキシル-4'-シアノビフェニル(6CB)からなるネマチック液晶セルの印加電場にともなう配向変化を測定し、配向層近傍の応答がバルク層に比して著しく遅れることや、バルク層にない“induction piroid"を示すことなどを明らかにした。
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