研究概要 |
1.先に、これまで未知であった[1.1]パラシクロファン(1)が対応するビス(Dewarベンゼン)の光異性化によって生成することを分光学的手段によって確認することに成功したが、1とそのビス(メトキシカルボニル)誘導体は室温において単離しうるだけの安定性をもたない。嵩だかい置換基の導入によって1の骨格を動力学的に安定化することが可能と考えて各種置換体の合成を進め、立体的に保護された1の前駆体合成まで到達した。今後、室温で取扱い得る安定性をもつ1つの置換体について[1.1]パラシクロファン構造に固有の性質を明らかにしたいと考えている。 2.[4]パラシクロファン(2)は、1よりさらに高度の変形を受けたベンゼン環をもつ化学種であり、これまでのところ低温マトリックス単離条件下でのみ観測可能であった。[4]パラシクロファンについて注目される点は、その高度の変形と芳香族性の関係である。その解明にはNMR測定が不可欠であるが、嵩高い置換基によって2を動力学的に安定化することを試み、少なくともNMR測定に耐えうる安定性をもつ2の生成に成功した。上記の問題について解析を進める予定である。 3.2の前駆体の構造変換によって新規不飽和多環系トリシクロ[4.2.2.2^<2.5>]ドデカ-1,3,5,7,9,11-ヘキサエン、および高度に活性化された不安定化学種であるブタレンの生成を示唆する結果を得た。これらの化学種の生成確認とその化学的性質の解析を継続して研究する予定である。
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