研究概要 |
1,4-ジアリール-2,3-ジメチルビシクロ[2.2.0]ヘキサンexo,cis-1の光増感電子移動反応では,協奏的結合開裂と段階的結合開裂が競争的に進行し,各々DL系化合物物群とMESO系化合物群を与える.本研究では種々のシアノ置換芳香族系一重項増感剤を用いて生成比DL:MESOの変化に対する増感剤効果を次の様に検討した.(1)蛍光消光距離を実測し,イオン対構造の違い(SSIPか?CIPか?)と生成比の関係を調べた.その結果,SSIPにおいてはMESO系化合物群を,CIPにおいてはDL系化合物物群を各々与え易い事が明らかになったが,同じCIPを反応場にしながらもDL:MESOの比は大きく変化する事実から,イオン対構造の違いは本質的な差ではない事が示された.(2)種々のパラメータとの相関を検討した結果,生成比DL:MESOを左右する第一因子は増感剤アニオンラジカルの最大部分負電荷密度q^-である事が明かとなった.即ちDL:MESOの比の変化をexo,cis-1^+の1位(もしくは4位)の部分正電荷密度q^+の大きさの変化として理解するならば,イオンペア内でq^-はq^+の変化を連続的に誘起している事になる.(3)同様に考えれば溶媒効果の誘電率εの変化が,また置換基効果はアリール上の置換基の電子供与性がq^+の連続的な変化を誘起している,と合理的に考察できる.これらを統一的に議論するためにはカチオンとアニオンの間のクーロン引力Fを考慮すると良いことを導いた. また,exo,cis-1に見られた特異な反応性はexo,cis-1にも若干みられたが,trans-1では全くみられなかった.X線結晶構造解析を行った結果,1位(4位)に発現する正電荷に対するアリール基の安定化の大小がこれら3種異性体の反応性の変化に密接な関係があることを見いだした.
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