昨年度見いだした1、4-ジアリール-2、3-ジメチルビシクロ[2. 2. 0]ヘキサンのエキソシス体のラジカルカチオンの構造がイオンラジカル対構造により変化し、反応機構にも影響するという事実に基ずき、本年度は一般性確立の観点から1、1-ジアリールスピロペンタンの光電子移動条件下のシクロブテン誘導体への異性化反応に関するイオン対構造と反応機構の関連を主テーマとして研究した。1、1-ジアリールスピロペンタンのクロラニル増感異性化反応は1、4-ジアリール-2、3-ジメチルビシクロ[2. 2. 0]ヘキサンのエキソシス体同様にアセトニトリル中では熱力学的により安定な1-(ジアリールメチレン)シクロブタンが2-(ジアリールメチレン-1-メチレンシクロブタンよりも圧倒的に生成するが、塩化メチレンから非極性ベンゼンにさらに溶媒を変化させると熱力学的により不安定な後者の生成量が著しく増大する。アニオンラジカルの負電荷密度の最も低いテトラシアノアントラセンから負電荷密度最も高いシアノアントラセンまで7種の増感剤を用い両者の生成比に対する増感剤効果を調べた。負電荷密度が高くなるにしたがい後者が増大し、低くなるに従い前者が増大する。立体化学の検討から、前者は協奏反応で、後者は多段階反応で生成する事が判っているので、イオン対間相互作用の“強い"イオン対からはイオン対間相互作用を維持するよう電荷とスピンが完全に分離したラジカルカチオンを経由して多段階反応が起き易い事には一般性があるようである。新たな反応例の検索と物理化学的観点からの機構解明を更に追求する。
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