研究概要 |
2,3-ジメチレンシクロヘキサ-1,4-ジイル(1)はdisjointのジラジカルであるテトラメチレンエタンの類縁体であり,基底状態が3重項であるか1重項であるか実験,理論両面で議論されたきた。今回,この分子についてESRスペクトル及び磁化測定により基底状態についての研究を行った。 W. R. Rothの方法によりオルトフタン酸から出発して,7段階で5,6-ジメチレン-2,3-ジアザビシクロ[2,2,2]オクト-2-エンを合成し,MTHF剛性溶媒中で光フィルターを通した高圧水銀ランプの光を用いて,ESRキャビティー中で光分解反応を行い1を得た。光分解反応の条件を詳細に検討することにより,この光分解反応は用いる光の波長により,異なった生成物を与えることが明らかとなった。312.6nmの光では,D値,E値共に大きい三重項由来のシグナルが,また302,2nmの光では,D値,E値共に小さい三重項のシグナルが観測された。三重項に特徴的なg=4のシグナルは前者の312.6nmの輝線での生成物にのみ観測された。このことからこの光分解反応では二段階の反応が起きており,前者の方を目的物と決定した。ジラジカルの磁化測定では低温部分まで磁気相互作用が見られず,この分子内で1重項状態と三重項状態はかなり縮重している事が示唆された。
|