研究概要 |
中村・岩村らにより合成されたstarburst型ヘキサカルベン(1)およびノナカルベン(2)は、極低温下マトリックス分離された状態では、それぞれ理論通りのスピン量子数S=6、S=9(磁気天秤による)を示す。この状態をESRで観測すると、2では磁場の掃引方向・モジュレーション強度などの外部磁場への応答に半減期約30分の遅延があることが判明した。超常磁性の出現が期待されるため、カルベン前駆体のヘキサケトンおよびノナケトンを大量に合成した。 1、2と分枝状態の異なる異性体カルベン3種の合成・磁気測定を行ったが、枝部分の回転の自由度が無視できず、カルベン間の分子内再結合等により期待されるスピン多重度に到達できない場合があることがわかり、ポリカルベンの設計に関して重要な知見を得ることができた。 上記のカルベン合成の鍵段階は、異種のアリールエチニルケトン間の交差環化三量化反応によるトリス(アロイル)ベンゼンの生成である。異種エチニルケトンの混合比・触媒量・環化反応の追跡・生成物の精密解析などにより、エチニルケトンの環化三量化反応の機構を明らかにすることができた。 蜂の巣状ポリカルベンのモデルとして閉じたループ構造を持つヘキサカルベン(3)の合成・磁気測定を行い、基底十三重項となることを確認した。これにより、3種のヘキサカルベンは分子の幾何学的形状や対称性が異なるにも拘わらずすべて基底十三重項となり、スピン多重度がπ結合の周期性により支配されることが示された。 強磁性的な結晶構造を見いだすために3,5-ジヒドロキシフェニルニトロニルニトロキシドを合成し、磁気測定・X線結晶構造解析を行った。結晶構造の制御のために水素結合が有用であることが確認できたが、相互利用点を増すためにはもう少し自由度のある化合物の分子設計が必須であることも判明した。
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